キーンベック病体験記 その17「ボルタレン座薬、万歳!」

2019年1月12日

麻酔、というものを人類で一番最初に用いた人は誰なのだろう。

wikipediaを見る限り、日本で最初に全身麻酔下の手術を行ったのは、華岡青洲だということである。

麻酔のお陰でこうして僕も両手のキーンベック病の橈骨骨切り術を受ける恩恵にあずかることができている。

ボルタレン座薬、万歳!!


しかし、僕は麻酔以上に痛み止め、特にボルタレン座薬を開発した人に多大なる感謝の意を表したい。

今回の右手の橈骨骨切り術の後も麻酔が切れる頃になると、心臓の鼓動とシンクロして右手の痛みが猛烈な強さになった。

ただ初回の左手の術後の痛みに比較すると、少し軽かった。

痛みに慣れた身体になったのか、それとも僕を呪う人物が少なくなったのか。

どちらにしても痛いことに変わりはない。

ズキズキと痛みが増してくる。

時計を見ると午前1時過ぎ。

手術が終わって約8時間経過している。大方の予想通りだ。

事前に夜勤のナースに「痛みが強くなったらナースコールしますので、その時は座薬をお願いします」と伝えていた。

なので、今回は遠慮なくナースコールを左手親指でグッと押した。

夜勤ナースはすぐに来てくださった。

「痛みが強くなったので座薬をお願いします」

冷静な声で、僕としては津嘉山正種か井上二郎くらいの低音で伝えたかったが、少々痛さの演出も必要かと思い、バス旅で太川陽介に怒られる蛭子能収風の声でお願いをした。

言っておくが、僕は蛭子能収と同じ長崎県出身ではあるが、顔も性格も似ていないので、その点は強調させていただく。

あぁ、女神様!!

夜勤ナースはすぐにボルタレン座薬を右手に持ってきてくれた。

嬉しいことにディスポの手袋をはめて!

初回の手術の時の夜勤ナースはそんな素振りもなく、

「さっさと自分で入れちまいな!」

みたいな場末の嬢の雰囲気だったが、今回のナース様は違う。

右手にディスポの手袋をはめ、親指人差し指中指で、弾丸の形をしたボルタレン座薬をしっかりと持ち、僕のお尻に入れてあげようという、そんな雰囲気なのだ。

あぁ!女神様!

タバコの匂いがプンプンするナースでも、あなたのひとかけらのその優しさが、僕には女神様に見えますよ‼︎

しかし、今度ばかりは僕は井上二郎似の声で、

「自分で入れますから大丈夫です」

と女神様に申し上げた。

そして左眼でウインクした。

というのは嘘だが。

とにかく夜勤ナースからボルタレン座薬を受け取り、僕はその白い弾丸を尻の穴に入れた。

あ〜、これで痛みから解放される…。

座薬は30分ほどで効き始め、それから僕はまた眠りについた。

朝の目覚めは爽やかだった。

右手は腫れているが、もうズキズキとした痛みもない。

朝の夏空を見ながら僕は心の中で思い切り叫んだ。

「ボルタレン座薬万歳!タバコの匂いがする夜勤ナース、いや女神様万歳!!」

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